【解説】人生のレールを外れる衝動の見つけ方| 谷川嘉浩|変化を受け入れる勇気をくれる本

理系社会人が働きながら簿記三級を2カ月で取得するためにやったこと3選 抜粋を編集

はじめに

 今回は、哲学者・谷川嘉浩氏によって2024年4月に刊行された一冊、『人生のレールを外れる衝動の見つけ方』を紹介します。

 その前に、魚豊氏による漫画「チ。地球の運動について」という漫画をご存知でしょうか。この漫画の舞台は、15世紀ヨーロッパ。異端思想はガンガン火あぶりに処されていた時代。主人公ラファウは飛び級で大学に入学するほど優秀でした。当時一番重要とされていた「神学」の専攻を皆から期待されていましたが、ある日出会った謎の男をきっかけに、ある「真理」に突き動かされていきます。。。

 ラファウ少年は他者や世界を冷たい目線で見つめ、敷かれたレールに乗って社会を無難に乗り切ろうとした秀才でした。それなのに、彼は人生のレールを外れるように「地動説」の研究に傾倒していくのです。

 現実世界でも、「え?なんでそんなことを、その熱量で?」と思うような行動を起こす方はたくさんいらっしゃいます。そしてなぜか周囲はその勢いと熱量に惹かれていくのです。
 本書は、この「衝動」とは何なのか、どうやって付き合っていくかを探求してくれる一冊です。
 本書は、以下のような方に特におすすめです。

  • 自分の情熱や目標を見失い、何を目指せば良いのか迷っている方
  • 日々のルーチンや職場環境に違和感を覚え、新たな挑戦や転機を探している方
  • 心から没頭できる趣味や活動を見つけたいと願っている方

 この本を通して、自分が感じた衝動は何なのか?自分の人生をどう生きていくかを考えてみませんか?

「人生のレールを外れる衝動の見つけ方」について

 本書は、「本当にやりたいこと」や「将来の夢」がわからないと感じている人々に向けて、自分の中にある「衝動」を見つけ出し、それに従って生きるための方法を探求しています。著者は、前述した「チ。地球の運動について」だけでなく、「葬送のフリーレン」「転生したらスライムだった件」「ブルーピリオド」などの有名漫画を例にした分かりやすい解説だけでなく、心理学者トッド・ローズとオギ・オーガスが主導した「ダークホース・プロジェクト」に基づいた型破りな道を選んだ成功者たちの研究を通じて、哲学的な視点から「衝動」とは何かを解明し、それを日常生活に取り入れるための示唆を紹介していきます。

この記事では、本書で語られる「衝動」とは何なのか、一部重要なものを抜粋し、解説していきます。

本書の解説

衝動に駆られる人々

 本書では、社会の常識や周囲の期待にとらわれず、自分の「衝動」に従って生きる人々の事例が紹介されています。以下に例を挙げます。

衝動に駆られる人々(フィクション含む)

  • 人生を賭けて「地動説」を研究したラファウ「チ。地球の運動についてより」
  • 打算的だったにもかかわらず友人の思いを継ぎ、希死念慮に囚われるフェルンを助けたハイター「葬送のフリーレンより」
  • 対価を貰わずに空揚げを作って配る僧侶の三浦さん
  • カルデラ盆地で見た夜空に圧倒された以来、高校落第したほど勉学が苦手だったにもかかわらずプラネタリウムに入り浸り、最後は新惑星を発見したマミーコックさん

彼らは傍から見ると幽霊に憑りつかれたような行動も、本人にとっては強い「衝動」に基づくものです。

衝動とは何なのか

 「衝動」は世に言う「将来の夢」や「本当にやりたいこと」を突き抜けて、もっと熱中へと誘ってくれる欲望と言い換えることができます。
 将来の夢について聞かれたとき、素直に答えたら、「えーそれは無理だよ」と突き返された経験はありませんか?これは「将来の夢」の言葉の裏には「世間に期待される正解」があるからです。周囲の期待に振り回される状況に嫌気がさして、「本当にやりたいこと」を探しても、実は「世間的に華々しいスポットライトを浴びている」とか、「今の自分が正解だと思っている」ことだったりするのです。どちらも、外的欲求が起因しています。

一方で「衝動」は周囲や自分自身が疑問に思うくらい非合理で、”要領のいい”、”賢い”行動とは無縁です。その様子は他者には理解しがたく、自分自身を突き動かします。自分の内部から持続的に巻き起こる深い欲望で、自分でもコントロールできません。これは、社会的なインセンティブやメリットとは無関係で、本人だけの特別な情熱です。
人生の岐路に立った時に、自分の衝動を観察し、解釈することが自分の助けになってくれるはずです。ではどうやって自分の「衝動」を見つければよいのでしょうか。

衝動の見つけ方

 衝動はとても潜在的で具体的に言語化することは困難です。ですが、偏愛は特定の欲望として表によく現れ、具体的に語ることができます。そのため偏愛を十分に言語化し、一般化することで衝動は何なのかを表現できます。それでは、自分の「偏愛」を解釈するためにはどうしたらよいのでしょうか。本書では「セルフインタビュー」を紹介しています。

セルフインタビューのコツ

  • 世間的な評価や立場によって思いや考えを控えないようにする
  • かといって自分を調子づかせたりせずに考える
  • 自分にとって快適な環境を用意し、自分にとって何が「心地よいか」を探る
  • 自分が思いついた出来事の「細部」に注目する
  • 逆に居心地の悪かった出来事、不快な要因を探る手法もある

自分の「衝動」を見つけるためには、日常生活の中で心が自然と惹かれるものや、時間を忘れて没頭できる活動に注目し「セルフインタビュー」することが重要です。また、スマートフォンやデジタルデバイスから離れ、自分自身と向き合う時間を持つことで、内なる声を聞きやすくなります。さらに、これまでの様々な経験や挑戦の「細部」を振り返り、自分の興味や情熱の源泉を探ることも大切です。

衝動から行動に移す方法

 「衝動」を見つけたとしても、それは方向性を与えるだけで、具体的な目的地を与えることはありません。心理学者のジョン・デューイによると、衝動から目的や戦略に結び付ける知性の働きは3つに分けられます。

  1. 環境を観察すること
    • 衝動は、それ単体では実現しません。それを受け取る「相手」が必要です。その時の周囲の状況や環境を注意深く観察し、現状を正確に把握することで、問題の本質や背景を理解しすることができます。
  2. 記憶を探索すること
    • 次に、衝動が起きたときの過去の経験や知識を思い起こし、現在の状況と関連付けます。これにより、以前に似たようなどう行動したか、そしてどのような結果になったかを知り「衝動」が起こす影響を具体化していきます。
  3. 意味を判断すること
    • 最後に、観察と記憶から得た情報を基に、現在の状況の意味や重要性を判断します。これにより、最適な行動や解決策を導き出すことが可能となります。

 これらの3ステップを通じて、「衝動」を知性で理解し、熟慮した上で適切な判断と行動に活かすことができるとデューイは説いています。日常生活に取り入れるためには、計画性と柔軟性のバランスが重要です。

 衝動に基づく生き方は、自分の個人的な偏りやフィットするような目的・戦略を選ぶため、何度も試行錯誤をする必要があります。試行錯誤をする都度、世間的に「正しい」やり方ではなく、個人の特性を踏まえてベストな目的と戦略を選び取ることが大切です。

おわりに

 『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』は、自分の「本当にやりたいこと」や「将来の夢」がわからないと感じている方々にとって、道しるべとなる一冊です。社会の期待や既成概念にとらわれず、自分自身の内なる「衝動」に耳を傾け、それに従って行動することで、より個性的な人生を歩むことができるでしょう。本書をざっと要約しましたが、それよりも「細部」から得られる感情は読者一人ひとり異なり、感じ方も変わるはずです。本書を手に取り、自分だけの「衝動」を見つける旅に出てみてはいかがでしょうか。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。